物語で知る福祉

ドッペルゲンガーなんていない! だってあなたはこの世にひとりしかいないから

なんだかわかりにくい福祉のことを物語にしてお届けします。

第1弾としてバイスティックの7原則を1つずつ物語にしていきます。

今回は『個別化の原則』についてです。

福祉を学ばれている学生や福祉職として働きはじめたばかりの人などの参考になれば幸いです。

 

ではどうぞ!

 

障害というラベル

「別にいいっすよぼくにはそれ」
「何言ってるの! あなたは発達障害なんだからこの方がわかりやすいでしょ!」

そういって作業をしているぼくの隣で支援員が絵カードを見せてきていた。

ぼくには自閉症スペクトラムという障害があるらしい。
それで特別生活に困ってきたという自覚はないが、確かに周りとは違っている。
少し変わっているという表現が自分としては正しいと思っているが周りから見るとちょっと変わっているというレベルではないらしい。

高校を卒業後は教師やスクールソーシャルワーカーの勧めもあり、就労継続支援B型に行くことになった。

ぼくは高校も普通に卒業しているし、少ないが友達もいる。
授業についていくのは大変だったので成績は悪かったが、作業のやり方を毎回絵カードで示されなければわからないほどバカでもない。

しかし困ったことにこの支援員という人たちは何度それも伝えてもわかっちゃくれないのだ。

 

◎自閉症スペクトラム
発達障害のひとつ。コミュニケーションが苦手なことが多い。

◎絵カード
発達障害者の支援ツールのひとつ。口頭よりも文字や絵など視覚情報優位な方には有効なツール。

◎スクールソーシャルワーカー
公立の小中学校等に配置されているソーシャルワーカー。

◎就労継続支援B型
障害福祉サービスのひとつ。障害のある人に作業を提供し、工賃も支払われるが雇用契約を結ばないため最低賃金以下の工賃であることがほとんど。

 

 

同じ症状はない

「絵カード本当に必要ですか?」
「障害ではなく、ちゃんと彼のこと見てあげてください」

彼女は凛としてそう言い放った。

 

相談支援事業所で働く、相談支援専門員の彼女はぼくの担当の相談員だ。

ぼくの様子を見に来た彼女はびっくりして、就労継続支援B型事業所のスタッフに話し合いがしたいと申し出たのだった。

「彼には色んな可能性があります」
「それを伸ばすためにここに来ているのですから、くれぐれもよろしくお願いしますね」

そういって彼女は事業所を後にした。

 

話し合いが終了し、ぼくも帰り支度をして事業所を出たところで相談員の彼女は待っていた。
「どうしました?」
ぼくが声をかけると、「ごめんなさい」と頭を下げてきたので驚いた。

「この事業所を紹介したのは私です。まさかこんな処遇を受けているのは知らず、本当にごめんなさい」
「でも今後はどんな些細なことでも相談してほしいの。他の事業所に移っても大丈夫だし、私が出来ることは可能な限りします」
「あなたはあなたなんだから、他の人も同じようにされているからといって我慢する必要はないのよ」

 

◎相談支援事業所
障害福祉サービスを利用する際に相談をする場所。

◎相談支援専門員
相談支援事業所で働く専門職。相談に応じて障害福祉サービスの連絡・調整等を行う。

 

 

ひとりの人間として

それからそこの事業所を辞めることはなかったが、相談支援専門員の介入によってスタッフの関わり方はかなり変わった。

何というかひとりの人間として見てくれていると感じる。

それまでは、ぼくと同じような人間がたくさんいて、同じような対応をされていた。

さしずめぼくのドッペルゲンガーがたくさんいるような感覚だった。

 

今は相談支援専門員の彼女と就職に向けての今後のステップも話し合っている。

ぼくにも色んな可能性があることを感じることが出来ていて、とても幸せだ。

これから色んな苦難があるかもしれないけど、障害者だからと言われるよりひとりの人間として見てほしいとぼくは強く思っている。

 

 

解説

バイスティックの7原則の「個別化の原則」は、ひとりとして同じ問題や困難を持った人はいないという原則です。

同じように見えて似て非なるものなのです。

今回の物語に登場した主人公は自閉症スペクトラムという障害を持っていました。

一般的には空気が読めないとか相手の立場に立って考えるのが難しいなどのコミュニケーション面の問題やこだわりが強いなど物事に対する執着を指摘されることが多くありますが、症状の出方や程度の差は人それぞれです。

 

例えば、風邪をひいたとしてます。

風邪症状といえば

  • 鼻水
  • 頭痛
  • 腹痛
  • 発熱
  • 身体のだるさ  等々

風邪ひとつとっても様々な症状がありますが、毎回全員に同じ症状が出るわけではありませんよね。

発熱とだるさはあるものの咳や鼻水はない時もあるし、発熱はないが咳がひどい時もあると思います。

どんな病気や障害もひとつとして同じ症状はないのです。

 

さらにこの病気や障害によって生活面でも様々な問題が生じてきますが、その問題も人それぞれです。

例えば下半身不随の車椅子の人。

古い家で段差だらけの家に住んでいる人 と お金持ちで自宅内にもエレベーターがあるような家では生活面での問題の差は歴然にあります。

環境によっても左右されるのですね。

 

これらの原理をしっかり理解したうえで支援者は関わらなければならず、それを無視した場合物語にあったような、この障害にはこういう支援が有効だという思い込みがなされてしまいます。

これは非常に危険なことで、場合によっては支援者が良かれと思ってしていることで利用者の本来持っている能力が発揮されず、どんどん能力が低下していき、ついには就職できるほどの能力があったにも関わらず就職出来ず、一生を就労継続支援B型事業所に通って過ごすことになったり、施設に入所になってしまうかもしれません。

 

『個別化の原則』

ぜひ意識して支援にあたってくださいね。

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