あなたは救護施設をご存知ですか?
福祉関係者にもあまり知られていない救護施設ですが、実は日本の根底を支えているのは救護施設なのです。
筆者は救護施設で長年働いてきた経歴があり、もっと世に知られてもよいのではないかと考えております。
救護施設シリーズは連載として定期的に更新してまいります。
初回である今回は救護施設ってどんな施設なの?どんな人たちが入所しているの?ということをお伝え致します。
生活保護法を根拠法とする施設である
救護施設は生活保護法を根拠法とする施設であり、日本国憲法第25条「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、いわゆる生存権を保障するための施設である。
生活保護法というと、ほとんどの国民は保護費(お金)の印象しかないと思いますが、実際には生活保護法には様々な制度、施設が規定されており、利用者の金銭面だけではなく複合的に支援をして自立を目指します。
どんな人が入所しているの?
救護施設には障害者施設や高齢者施設とは違い、障害や年齢による区別がありません。
入っておられる主な例としては
- 身体障害者
- 知的障害
- 精神障害者
- 発達障害者
- 重度心身障害者
- それらの重複障害(知的+精神障害など)
- アルコール依存症者
- 薬物依存症者
- ホームレス
- DV被害者
- 犯罪歴のある者
などです。
年齢幅は20歳〜85歳(筆者の勤務していた救護施設の場合)
重複障害の方は身体、知的、精神障害を持っている方もいらっしゃいました。
このように救護施設はお金の面だけではなく、様々な意味で日本の最後のセーフティネットとして機能しているのです。
なぜこんな色んな人が集まるの?
救護施設は福祉の原点、源流であると有識者の間では語られることも少なくありません。
世界的に見ても貧困問題から福祉が発展してきた歴史がありますが、日本でも同様で、古くは明治7年の恤救規則にはじまり、昭和7年に施行された救護法そして現在の生活保護法に繋がっていきます。
昔は様々な理由により貧困に陥った人たちを貧困救済のための法律で一律に支援をしていたのです。
そこから高齢者や障害者の法律が整備されていきました。
つまり今の福祉制度は生活保護法の派生とも言えるでしょう。
そして他の福祉制度が整備されていくと救護施設の在り方も変わっていきました。
現在の救護施設の在り方は、制度の網目に漏れた人々を支援することです。
具体的には
精神障害者
古くから現在に至っても日本では地域で精神障害者を受け入れる体制が整っていません。
体制が出来ていないにも関わらず、病院から地域へという流れが出来ており、重度の精神障害があり、長期入院していた人が退院することになっていったのです。
それを歴史的に受け入れてきたのは救護施設で、現在の救護施設では入所されている方の約7割は精神障害者です。
重度障害者
単純に身体障害者の人や知的障害者の人はそれぞれ身体障害者の施設があり、知的障害者の施設があるわけですが、身体障害と知的障害を併せ持った人を受け入れてくれる施設はありません。
障害者自立支援法制定以降、3障害を総合的に支援するようにと謳ってきましたが、実際には身体障害者の施設は身体障害者のみを受け入れてきているのが現実です。
今までずっと身体障害者だけを受け入れた施設の職員には他障害の人を受け入れるノウハウはなく、リスクが高いため当然と言えば当然です。
必然的に重複障害のある方々は救護施設が受け入れてきました。
精神障害者の次に救護施設の入所が多いのが、この重複障害です。
障害のある高齢者
生活保護法は他法優先の原則というものがあり、他に活用できる制度があるのであればそちらを優先的に使いなさいよというものです。
つまり65歳を越えた方は介護保険料の適用になり、救護施設から老人ホームに移ってもらうのが普通です。
しかし、これが簡単なことではなく、事実救護施設ではかなり高齢化が進んでいます。
理由のひとつにそもそも救護施設に来る方は精神障害者や重複障害者が多いということです。
その方たちが高齢者となり、今まで障害者施設に受け入れられなかった人たちが果たして老人ホームに受入れてもらえるでしょうか?
答えはNOです。
障害者施設同様に精神障害や重複障害を持った高齢者を受け入れるためのノウハウを老人ホーム等の高齢者施設は持っていません。
老人ホームなどは利用者の通院、診察をまとめて決まった病院へ送迎したり、施設内の嘱託医で対応しているところが多いと思いますが、精神障害のある方を受け入れたことのない老人ホームはどうなるでしょう?
その人のためだけに精神科の病院へ送迎できるでしょうか?
ただでさえ人手不足の介護現場ですから難しい問題です。
犯罪歴のある人
現在刑務所に入っている人たちの多くは障害を抱えています。
身よりもなく、障害があって働けないような人たちが果たして一人で出所後生活していけるでしょうか?
刑務所を出たものの食べていけなくなり窃盗をくり返す人も少なくありません。
人によっては刑務所に入りたいがために犯罪行為をくり返す方もいます。
それほどまでに今の世の中は生きにくいのです。
そんな方々を受け入れる施設も救護施設をおいて他にはないのが現状です。
犯罪歴のある人たちが救護施設入所になった場合は保護観察官や地域定着支援センター、医療観察法適用者は精神科病院とも連携をしながら利用者の更生と自立を図っていきます。
DV被害者、被災者、熱中症危惧者
これらは緊急一時的に入ってこられる方が多いのですが、年中通して依頼があるのはDVや虐待を受けていて逃げてきて、次の行き先を見つけるまでの利用。
台風や地震により家屋が倒壊する等して入ってこられる方。
そして最近増えているのが、高齢や障害があり熱中症リスクが高いにも関わらず家にはエアコンがないため夏の間だけ利用される方です。
家具什器代としてエアコンが認められたこともあり、施設に一時的に入れるくらいならエアコンを設置してあげたら良いのに…とは思いますが、なかなか難しいのですねかね…。
施設に入るための本人負担もバカにならないですけどね。
以上のように他施設ではなかなか受け入れが困難な方々を救護施設は受け入れてきました。
ただし、これは現在の話であり、今後他の福祉制度が変わっていくことで救護施設の対象となり得る人々は変わってくるでしょう。
まとめ
あまり知られていない救護施設ですが、日本社会において必要不可欠な施設であることわかってもらえたかと思います。
- 生活保護法を根拠とする施設である
- 様々な障害や生活困難を抱えている方が入所されている
- 特に制度の網目に漏れた人や現状日本では受け入れる体制の出来ていない人々を特に多く受け入れている
- 日本における最後のセーフティネットである
次回は「救護施設の機能 どんなことをしているの?」をテーマにお送りします。

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救護施設シリーズ全5回、拝見させていただきました。
考えを同じくする人がいたことは、うれしく思いました。
今後、お話ができれば幸いです。
福岡の救護施設の施設長です。
コメントありがとうございます。
救護施設は生存権を体現しているなくてはならない存在であると考えていますが、あまりにも認知度が低い現状です。
私自身はすでに救護施設ではなく、別の施設で働いているのですが、外から何かできないものかと考えています。
救護施設で勤めていた時であれば、全救協でお会いできたかもしれませんね。