今回はあるケースをもとに書いていきます。
ご存知の通り我々ソーシャルワーカーには守秘義務がありますので、これは事実を元にしたフィクションだと思って御覧ください。
【死】について考えるきっかけになれば幸いです。
Aさんの現状
筆者の勤める救護施設には様々な人が入所しているのですが、仙人のような出で立ちで長い白いヒゲを生やし、190センチ近い巨体で冬場はいつもちゃんちゃんこを羽織っている施設の主のようなおじいさんがいます。
その方は現在、癌末期で肺疾患も抱え、少し歩くだけでも「ぜぇぜぇ」としてへたりこんでしまうほど弱っています。
ひどい時には一人で起き上がることもままならず、職員の介護が必要な面もあります。
今でこそ諦めたのかオムツ対応や車椅子対応を容認してくれていますが、Aさんは元々すごくプライドの高い方でオムツや車椅子は断固拒否だったのです。
今でも元気な時は車椅子に乗せようとすると怒鳴る時もありますが、「お!今日は怒鳴ってるなー元気で安心だ」と思えるほどです。
そしてAさんには精神障害、知的障害もあるのです。
精神障害、知的障害による生活のしづらさ
オムツをしてくれるようになり、支援する側もやりやすくなったのですが、本人の尊厳を失わせてまでしてよかったものか、考え方によるかもしれませんがそれが最善だったのか筆者にはわかりません。
オムツをするまでは居室内で放尿。
施設内のそこら中で便失禁ということが毎日のように繰り広げられ、職員も疲弊している状況ではありました。
認知症はありませんが、それをオムツをせずに解決するには精神・知的障害の壁が立ちはだかりました。
色々対策はしましたが、結局オムツになってしまったことは残念なことです。
またお風呂にはほとんど入りません。
これも精神障害の特徴のひとつとも言えますが、お風呂に入るのは3ヶ月に1回くらいでしょうか。
身体がしんどいこともあるので無理強いはせず、シャワーや清拭だけの対応でやりくりしてきました。
昔ながらの人
Aさんは昔ながらの人という言い方がピッタリはまるような方でした。
癌なので相当に痛い時もあると思われるのですが、自分の口から痛いということは絶対に口にはしませんでした。
杖・車椅子・オムツといった介護用品の利用も断固拒否。
そんな人が少しづつ弱っていき、介護用品の利用を受け入れていく様子は悲しくもありました。
どこに行けばよいのか
Aさんは現在酸素濃度もかなり低下しており、いつどうなってもおかしくない状態です。
しかし本人は治療は望んでいません。
そのため嘱託医も受け入れてくれる病院はないだろうということで紹介もしないとはっきり言いました。
当施設では看護師が常駐しているわけではないので、酸素ボンベなどの医療的ケアが困難です。またベッドも畳のベッドでリクライニングするようなものではありません。
看護師がせめてベッドがリクライニング式なら呼吸も少し楽なのに・・・とつぶやいていました。
救護施設にも色々あるのですが、我が救護施設にはろくな介護設備も介護福祉士もいません。
介護が必要な方が生活していくにはあまりに過酷な状況なのです。
しかし病院も老人ホームも受け入れてくれるところはありません。
本人の希望
本人は地元に帰りたいと常々話されています。
しかし、地元に帰ったとしても受け入れてくれる血縁者はおらず現実的ではありません。
当施設で本人の希望を叶えられているとしたら、唯一の楽しみであるタバコくらいでしょうか。
それも本当はやめた方がいいんですが、唯一の楽しみであるタバコを取り上げることなど私にはできませんでした。
本人にとって何が一番良いのか
当施設で痛み苦しみながら、死を迎えることが本当にAさんにとって良いことなのだろうか。
毎日考えてしまいます。
答えは出ません。
尊厳ある死を選ぶことはできないのか
おそらく尊厳を持って亡くなっていく方は少数派であるとは思います。
死の淵に立てば立つほど選択肢も少なくなっていきますし、自分で選択することも困難になります。
さらに障害や環境によって選択肢は少なくなり、尊厳ある死を選択することはできなくなっていきます。
人の終着点は「死」です。
エンディングをどのように迎えるか選択できないことは、とても悲しいことのように思えます。
生きること死ぬこと、命とは
この仕事をしていると「生きること死ぬこと、命とは」毎日考えさせられます。
しかし、幸せな人生を送るため、尊厳ある死を迎えるためには避けては通れないことだと思います。
「まだ若いし関係ないよ」と考える方もいるでしょう。
しかし、案外「死」は身近にあるものです。
時折で良いのですが、あなたも考えてみませんか?
生きることや死ぬことについて考えるにあたってアドラー心理学で有名な岸見一郎先生の書籍が参考になります。
一度読んでみることをおすすめします。
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